動物映画D20

動物映画をたんたんと見続けるコヨーテなのでした。 

祭の馬

映画『祭の馬』公式サイト


『野馬追』を中心としたドキュメンタリー映画。
福島県では、競馬、野馬追い、また食肉用と、様々な目的で馬を飼育している。
あの震災で、人間が立ち入り制限となった20km圏内にも、まだ馬たちが生きていた。


あの災害を運良く生き残ることができた彼らだが、
まるで、生き残ってはいけなかったとでもいうかのように、
馬たちは災害行政の狭間にとらわれ、身動きができなくなってしまう。
その中で彼らを生き延びさせようとする人間たちを、
一匹の馬にフォーカスすることで語りつなげた作品。


……あの震災のとき、自分は、ネットで緊急配信されていた各局のニュースをながめながら、
『動物たちの災害が始まるとき』とは、みたいな事をぼんやり考えていた。
そんなことを考えられたのは、僕が運よく難を逃れたからできたことで、
そうでなかった人たちがいたことを知っている。


動物映画を趣味とし、動物と人間の幸せな未来を祈っている、なんていいつつ、
動物たちは、今、どうしているのだろう? 
これから、動物たちは、どうしていくのだろう? ということを、
しっかり見つめなければいけないと思いながらも、
結局、この映画のように、人に録画してもらったものでしか見ることができないのだから、
自分は動物の物語を語る資格がないといっても過言ではないのではないか。
その思いがずっとあって、少しづつ動物や動物の映画を語るのが億劫になってしまっていた。


でも、動物映画が好きだから、資格がなくたって、
動物映画を見てもいいんじゃないかと思って、なんとか見に行くことができた。


内容は上に書いたとおりで、
大事なことは、作中で余すことなく語られているので、
ぜひ見ていただきたいんだけど、
特に心に残ったのは2つ。


ひとつは、馬たちを「生き延びさせない理由」を、
当事者たちに語らせていたところ。
あの語り口には、日本でのウマと人間の距離感と、
距離感という言葉では語れない歴史と絆がつまっている。
動物を語るというのは、こういうことだと思う。


もうひとつは、ウマに焼印を押すシーン。
震災前と震災後というスケールを超えて、『過去』と『現在』の時空が、
まるで良質なファンタジー作品を見ているかのような説得力で、つながっていく。
動物を語るというのは、こういうことだとも思う。


祭の馬は、人が動物を語るということのすばらしさと怖さを改めて感じられる映画だった。
震災があって、いろいろなところで、人々の心が離ればなれになってしまった世界だけれど、
それだけのことでは、馬と人間の絆は消え去ることはないし、
それすらも、僕たちの歴史の1ページにすぎないのだ。
逆に、だからこそ、彼らを追いて、自分たちだけが元の世界へと「復興」していくことなどできないのだと
そんなことをつらつら考えることができた。


観賞後、運よく監督のトークショーに参加することができたので、
僕は『なぜ馬の映画を撮ったのか』それだけを聞きたくて、質問をしようかと思っていたのだけれど、
監督は、そのことも含めて、動物の映画を撮ることの功罪みたいなのをしっかりと語ってくれて、
変な言い草だけど、『あの人が動物の映画を取ってくれて本当によかった』と思った。
これこそ、正真正銘の動物の物語だ。


2013年動物映画ランキング第2位。


物語 4 (物語があった)
キャラクター 4 (出てくる人間に魅力があった)
動物  5 (動物が描かれていた)
ファンタジー 4 (隠し切れないウマと人間への思い)
総合 4 (忘れえぬ名作)

お値段 2500円

2013動物映画ランキング出張編

震災があって、自分がそのとき何をしていたのか、何を思っていたのか、
もう一度見つめ直そうとして、
ようやく、この映画を見たことを誰かに話すのを忘れていたということを、思い出すことができた。
元通り、ここに記すことができることを、少しだけ喜ばしく思います。

2014年に見た動物映画 ランキング外 寸評

動物映画としては見られるけど、いまひとつ人に薦められない作品たち。

ネイチャー


ネイチャー 3D&2D Blu-rayセット

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動物ドキュメンタリーをここまで見てきて
今さら避けて通るわけにはいかねーとか言いながら劇場に見に行ったはずなのに、
恥ずかしながら、まったく内容を覚えていない。
砂漠をトカゲが走る映画だったような気はしている。

猫侍




「動物映画って動物出しとけばいいと思っている」


という言い方はよく耳にするし、実際僕も動物映画が好きなので、よく人からそんな挑戦をうけることがある。
でも、そういう人たちから、『人間が出てればヒューマンドラマなのか』みたいな考察を聞いたことがない。
とかいいつつも、『動物映画が動物出せばいい』という話は真実もあって、二つの動物映画の闇がある。


ひとつは、その動物の出しかたに異様にこだわる映画があること。
もうひとつは、動物を出す以上、こうしなければならないという思い込みで作られる映画があることだ。
だから、ただ動物を出しているだけでも、自然と動物映画の見えない因果にとらわれている映画はたくさんあるし、
それをかいま見るとき、動物映画ファンは大きな発見的な喜びを感じるのだ。


ただ、猫侍は、そのどちらでもなかったような気がする。
動物をなにかモノのように扱うシーンをリアルに捉えたところは評価できるけれども。
猫派と犬派の陰謀劇というのは個人的には好きだし、出てくる動物もかわいいのそろえていた気がするけど、
全体的にちょっと動物映画らしい覚悟が見えないなあと思うコヨーテでした。
続編が出るようなので、一応見に行きます。

ミートボール&キャシー こちらワンワン防犯課



シェパードのミートボールとポメラニアンのキャシーが泥棒と戦う映画。
竹書房は毎年、こういう謎い動物映画を放り込んでくるからほんと感謝してます。
これも、全然悪い内容ではなかったんだけど、
なかなか普通なのでちょっと他の作品に比べて押せるところがなかった。
ラッシーをリスペクトしているシーンがあったりするのが非常に心地よい。
バディーズシリーズのスタッフなんだ。

2014動物映画ランキング 佳作

2014年で一番よかったとまではいかないけど、お金を払ってみてよかったと思う動物作品たちについて。


映画ドラえもん 新のび太の大魔境 ペコと5人の探検隊


http://doraeiga.com/2014/

ドラえもんの映画もわりとまめに見ていて、
30作くらいあるうちの90%以上は見てます。
大魔境は、すごく自分の中で印象に残っている作品なので、
初日に無理して見に行ってきました。


国民的人気映画なのであらすじとしてはご存知の方も多いかもしれませんが
のびたたちはジャイアンの気まぐれで、アフリカの秘境探検をはじめることになる。
危険が待ち受ける探検にもっとも意欲的だったのは、
のび太の飼い犬であるはらぺこ犬「ペコ」だった。
ペコはいつしか探検隊の仲間たちを犬の王国へと導いていき、
のび太たちは王位をめぐる戦争に巻き込まれていく……

みたいな話?


端的にいうと、のび太の恐竜から始まる新しいドラえもんの長編シリーズで、
一番原作に手を加えてないシンプルで充分なリメイク。
なので、今までの軽微だがしかし全体に影響を与えてしまうリメイク手法に疑問を持っていた人でも
安心してみていられる一方で、
手を加えていないからこその『21世紀の現代事情にあってなさ』みたいなのが浮き出る感じだった。


ドラえもんという作品に、『時代にあってない』なんてことがあるのかという話だけど。
言葉にすると長くなるから全部は書かないけど二つくらい言える事があって、
ひとつは、ほんとに現代で「こんなこといいな できたらいいな」って思うのだろうか、
みたいな引っ掛かり。
具体的には、『秘境探検』ということについて。
作中でも、もはや秘境探検全盛の時代ではないことが触れられているけど、
それはあくまで『80年代での秘境探検の境遇と魅力』であって、
21世紀における秘境の話ではないなあと思うわけです。


そしてもうひとつ、大魔境は『犬を飼う』話っていうこと。
犬の話に新しいも古いもないという言い方は基本的に正しくて、
ただ、それは犬を描く動物映画のほとんどが、
そのときの現代に沿った家族像を見せてくれるというだけの話なんだけど、
この大魔境は、80年代での『犬を飼う』ということがどういうことだったか、
みたいなのが結構露骨に出ちゃってて驚いた。
ここは、実際に見ていただければ、動物映画通の皆さんは同じ気持ちになるはず。


ということで、80年代の『犬を飼う』ことからの『秘境探検』というのは、
いわば80年代×80年代。
この、時代にあってなさは、結構ドキドキもんですよ。
しかもそこをあえて一生懸命見ないふりをして、
ドラえもんの物語が続いていくところが、とても、なんというか、いとおしいわけです。


時代性で言えば、スピアナ姫は絶対にプードルから今人気の犬種に変わってるだろうとは思ったが
なんかなんともコメントしがたいデザインに変更されてて、それもドキドキした。
「そこかよ!」みたいなね。
目がマジだったね。


というわけで、基本的には満足なんだけど、ちょっと思うところもある。
これまでの大長編リメイクは結構アグレッシブに手を入れてきていたから、
今回も『動物を飼うこと』についての現代的な解釈とそれにそった『やっちまった改変』を期待したんだけど、
全然そんなことはなくて、いつもの動物映画を見ている自分なら、
『そこはもっと手を入れてくれよ!』と感想を書くところなんだけど
なんだか見終わったあとほっとしてしまったところに、自分ではもやもや感がある
つまり、ほんとに自分はのび太の大魔境が好きだったんだなあということに自分で驚く感じの映画体験でした。


どうしても時代性があるので、このブログでいう動物映画としての深みみたいなのは感じないけど、
別ベクトルで動物映画の濃度みたいなのは感じさせる、マニアックなコンテンツだと思った。
要するに3行でまとめるとケモナー向け。

闘犬シーヴァス

http://2014.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=127


トルコの闘犬シーヴァスと少年の物語。
犬と少年の話ではあるんだけど、人間視点というか、
どちらかというとドキュメンタリーっぽい視点での展開になっていた。
だから、映画を見る目のある人には評価が高い作品のような気がする。
動物映画としては、必要なものは高いレベルでそろっているけど
なんか突き抜けなかった印象をもった。
闘犬をガチっぽく(傷ついた動物はほんとにいないの?w)描くところが、
この映画にしかできないところだということは認めつつも、
動物映画のファンとしてそこを褒めるのはなんか違うなあという思いもある。
まあ、途中でカメラ酔いしてみてない時間に、自分が見逃した大事な部分があったと思うことにしている。

サバンナ・アドベンチャー


サバンナ・アドベンチャー [DVD]

サバンナ・アドベンチャー [DVD]


ナッツジョブとかを見たときも同じことを思ったけど、
もはや丁寧なつくりじゃないと、動物CG映画は勝負できない時代になっているなあとそんな思いをいだいた。
始まりの神話 & エキゾチック動物 & 動物ならではの感覚の描写と、
動物映画の味を押さえた丁寧な物語の作りで、
二番煎じと思わせておいて意外と面白かった、みたいな感想が似合う実力派動物映画。
とはいえ、動物映画の中では独自性を発揮したけど、一般的にはやはり目新しさは少なかったのではないかという感は否めず、
積極的に視聴している人がどのくらいいるのか、ちょっと不安になった一作。


Rio2


RIO 2

RIO 2


邦題「ブルー はじめてのそらへ」の続編。
海外旅行に行くときの飛行機の中で偶然見ることが出来たのでうれしい。
人間に育てられたアオコンゴウインコのブルーは、
1作目はミネソタからリオに行くけど、今回はリオからアマゾンに行ってた。

自然保護と帰るべき場所と人間と動物みたいなテーマはありがちというか
それがないといろいろ成り立たないけど、
このブルーシリーズは、やはり全体的に非常にクオリティの高い出来で、、退屈なところはいっさいなし。
2014年だし、リオならサッカーするよな? しないのか? みたいな気持ちで期待しながらみてたけど
そんなの取り越し苦労で、普通に鳥がサッカーする内容が中心だったのでよかった。
飛行機で利用できるコンテンツの冊子の表紙になってたので一押しだったのだろう。

The Nut Job

NUT JOB

NUT JOB


公園のリスが人間からナッツを盗むために悪戦苦闘する話。
唐突にPSYがでてきてカンナムスタイル歌ってたので超面白かった。
nutjobって、自分が英語の勉強してたときになんか難易度の高い単語として出題されたはずけど意味は忘れた。
今調べたら、『Someone who is insane or an idiot.』 だって。


ここで、唐突に邦題大喜利〜!!


『ナッツハンターサーリー』 → 語感がよい。
『ナッツ』 → シンプルなタイトルでCGアニメの大作感がでてる。戸田奈津子を想像させるので話題性もある。
『リスリス大作戦!』 …… 子ども向けにしぼってDVDリリースするならこういう感じになりそう
今調べたら、『ナット・ジョブ:ピーナッツ泥棒たち』という邦訳で報道されてますな。
韓国で100億ウォンかけて作られたのか。
ロボカーポリーの話はもうやめようよ。<2015追記>
邦題は「ナッツジョブ サーリー&バディのピーナッツ大作戦!」だってさ。
かなり近いじゃんwww
ってか、つい最近公開されたのかい。
http://www.nutjob.jp

闘犬シーヴァス

東京国際映画祭にはちょっとルサンチマン的な何かがあって、
たぶんに八つ当たりなのはわかってるんだけど、
動物映画がよく来るんですよね。
オオカミの映画を見に行ったことをよく覚えている。


でも、見られなかった映画がある。
流れ犬パアトは、たぶん去年一番面白い動物映画だったのだけど、
あっという間に満席になっちゃった。
動物映画に注目されるのってそれっていいことなのに
ほんとにみんな動物映画見に来たのかよ! いい映画見に来ただけじゃないのか!
とかよくわからない理屈ですねちゃうあたりが映画弱者っぽいですね。


それでちょっと調子を崩してというか
たぶんあれが去年一番面白かった動物映画のはずだったので
2014年動物映画ランキングはお蔵入りにしてしまったのである。


その後、動物映画がパタッと公開されなくなり後悔だけが募ると
そんな気持ちで、今回はどうしてもこの『闘犬シーヴァス』が見たかったのです。


あらすじ
トルコの山間の村に住む少年アスランは、
ある日、同級生の飼育している闘犬の試合を目にする。
敗れた犬は瀕死の重傷を追い、飼主も彼を捨て置いてシーヴァス県まで帰っていくが、
アスランはその犬のことがほうって置けなかった。

傷のいえたシーヴァスは闘犬の力を取り戻し、アスランを満足させたが
周りのおとなたちは彼を闘犬として高く売り払うための算段を始めるのだった……


みたいなお話。
なんかあのあたりはカンガル犬とかいう歴史的に強いのがいるみたいです。
銀牙に出てない犬のことはわかりません!

JP-TR/カンガル犬(アナトリアン シェパード)〜世界で最も優秀なトルコの犬



まずとてもよい映画だったと思っていて、
たぶんわざわざ深夜の映画祭に足を運ぶようなガチ勢の映画通でも
文句なく名作だといったに違いない。
みたいなことは強く感じた。
それは、わりにはっきりしていて
村の人間たちの生き方をとても自然に写しながら、
すこしづつ物語を浮き彫りにしていくみたいなところがあったので、
ここちよい空気に浸りながら、あ、今物語があるんだ、みたいなことに気付くという
よい映画を観てるときの感覚を持てた。


動物映画のタイプであるところの、動物を通して人間を描くスタイルもかみ合っていて
トルコの闘犬という物珍しさもあって良質な感じでした。

そんで、やっぱり気になったところもあって、
普段21世紀の動物映画というのを追い求めているから、
今の時代に動物映画、
しかも犬の映画、
しかも闘犬の映画をとろうとするところの闇みたいなところをみたいなーと
思っていたところは、あんまりくどくどといわない感じだったので、そこは腹八分くらいかな。

最後のシーンは、映画としてはとてもすばらしいのだけれども、
動物映画としては、すばらしい、になっちゃうかなーと
『動物をどう使いたかったのか』、みたいな外側の話にはどうしてもなってしまう。
そうすると、闘犬のシーンで、犬ではなく人間だけを写そうとしていた、というところにも
話がつながっていくのだろうと思います。
犬の物語へのリスペクト露骨ににおわせるシーンもあっただけに、という贅沢な落差だと思います。


これだけの傑作に、こういう感想がもててしまうのはちょっとうれしくて、
たくさんよい動物映画がある時代に生きているのは、人間にとっても動物にとっても幸せなことだろうと思うのです。


久しぶりに、動物の映画をみて頭ぐるぐるしました。
ついでに、カメラワークで酔って気持ち悪くなった。


1800円の価値があるかというと
深刻な動物映画不足の今年、犬の映画というだけで1800円。
トルコの犬の映画で+300円。
闘犬の映画で+300円。
人にお勧めできる動物映画ということで+300円の
2700円としておこう。



日曜の夜という厳しい時間に動物映画に付き合ってくれた友人たちに心から感謝します。